数日前から家政婦は疑惑を持っていた。
ベランダ巡回の後になぜ焼きささみが出てこないのか。
ふと脳裏をよぎった事件の匂いを家政婦は否定した。さすがに今日こそはササミをもらえるはずだろう。
だがいつまでたってもささみは出てこない。
自分は家政婦の仕事をちゃんとこなしているはずなのに、何がいけなかったのだろうか。
そういえば今朝。外がやけに寒かったので、ベランダ巡回はすぐにやめて帰ってきてしまった。
もしかしたらこれがいけなかったのだろうか。
後悔の念が後から後から湧き上がってくる。
ああどうしよう。とりあえず顎がかゆいので段ボールの端でかいておこう。ごしごし。あー気持ちええわー。ついでに匂い付けにもなって一石二鳥やわー。
もしかしたらささみはどこかに隠してあるのではないか。
家族が買い物に出かけた隙に、家政婦は一縷の期待を持って家中を探し始めた。
食器棚の上。とても高いように見えるがたかだか180cmだ。近くのテーブルから飛べば本気の家政婦にとっては楽勝だろう。
どこにもない。ついに捜査は行き詰ってしまったのか。
捜索に疲れ果てて憔悴しきった彼の耳が、出かけていた家族の足音を捉える。
あ、あの袋の音は!
家政婦は慎重にホットカーペットを避けてちゃぶ台から飛び降りる。
家政婦の予感は当たっていた。
買い物から帰ってきた家族からほんのりと匂うペットショップの匂い。
ようやくささみにありついた家政婦は、満足げに適当な寝床へと帰るのであった。
だが。今日も家政婦の仕事は何もしていない。